年末年始の細切れ時間で読んだ本。
寒いけどハーゲンダッツは別腹。
331ページ、ぎっしり詰まってます。難しそう、最後まで読めるかなと思っていましたが、この練習問題から以降は面白くてどんどん読み進めていきました。
二人の姉妹がひとつのオレンジをめぐって口喧嘩しています。
「半分に分けたら?」と親が言いましたが2人とも「ひとつ分が必要なの!」と言って譲りません。
しかし数分後、話し合いの結果、姉妹で無事に分け合うことができました。一体何が起きたのでしょう。
(「武器としての交渉思考」P.118-119から引用)
これ、私は最初わかりませんでした。なので答えを見てしまいました。
このブログの最後に答えを書きますのでみなさんも考えてみてくださいね。
みなさんは「交渉」という言葉を聞いてどんなことをイメージしますか。
私は相手を論破して打ち負かす戦術、というイメージが強かったです。そして打ち負かすことはできないと、最初から交渉の土台に乗ることをやめていました。私は個人事業主ですから本来であればきちんと取り決めをしなければしなければならないこと(報酬や拘束時間、業務内容等)も「今までどおりで」という形で済ますことばかりでした。もちろんそれで自分が納得していれば問題がないのですがそうでない場合も「ま、仕方ないか」で終えていました。自分に自信がないのもありますし、交渉することが怖くも感じていました。
もちろんその逆もあります。交渉をしないことで許してもらえていた甘えもあります。
瀧本さんは交渉とはむしろ相手とのコミュニケーションとして存在していると定義しています。また双方の利害を分析することで両者のニーズを満たす答えが出てくることがあるというのです。お互いが気持ちよく仕事をするために交渉があるというのです。
交渉を避けていた私にはちょっとありえない考え方でした。
この本では交渉するうえでの考え方がいくつか書かれています。その中でも「バトナ」をもつということは交渉をする上でも一番重要だと思いました。
バトナとは相手の提案に合意する以外の選択肢の中で一番良いもののことです。
例えばいらなくなったものを売る場合にこの考え方を使ってみます。
年末にモノの整理をして不要なものを売った人も多いと思います。パソコンなど値段の高いものやブランドものはどこで売るかでだいぶ買取価格は変わってきます。
最初の買取店で提示された金額で売却してももちろん構わないと思います(実際私はこのタイプ)。しかし自分が思っていたよりもあまりにも安ければ、他店に持っていき高い値段で買い取ってもらったほうが得です(時間やお店まで行くガソリン代等は考えないとして)。さらにさらに他店に持っていって提示された金額を最初の買取店にもっていって「他店ではこの値段ですが」と交渉することもできます。
買取店が「ここまでならまあいいかな」と思えれば交渉成立ですが、個人売買など他の方法があればさらに高い値段で買い取ってもらうこともできます。
こうやって選択肢をたくさん増やすことで交渉が自分にとって有利になっていきます。
もちろん相手が合意をすればですけどね。
※これはあくまでも一例なので「時間的価値を考えたらそれはムダだ」「実際リサイクルショップではこんなことはできない」という考えの方もちょっと目をつぶってくださいませ。
このようにビジネスシーンだけでなく普段の暮らしの中にも「交渉」というものは存在しているのです。
著者はバトナを増やすためには事前準備が必要とも語っています。この本では給与交渉を例にしていますが自分のバトナと同様に相手に自分のバトナがどう認識されているか把握しコントロールすることも大事なのだと。
自分に価値がある、と思うのと同時に相手にとって自分はどんな価値を与えられるのかを知らなければならないのです。
この本の後半は、複数人対複数人で交渉する場合や非合理的な相手との交渉の方法などが書いてあります。こうしたいわゆるハウツー的内容の本は世にたくさん出回っていて私自身も読んだ経験があるのですが、「こうすればうまくいくよ」という答えに納得して実践できませんでした(だから今のような私になっている)。
この本を読んで大いに感銘を受けている今の私ですが、それを実践しなければ全く意味のない本です。交渉がこわい、交渉するくらいなら相手の要求を笑顔で飲み込んだほうがいいと思っていた私ですが、笑顔で飲み込みたくない時は勇気をもって交渉しよう(玉砕することもあるかも知れないけれど)と気持ちが動いています。
そして実際少し動きました。
実際に「交渉」を意識してみて、交渉とは自分の希望をいかにたくさん相手に飲んでもらうかではなく、相手の希望を叶えるためにはどうすればよいか聴くことだと感じました。
話しは少し逸れますが、私は少し前にさかんに言われていた「『WIN-WIN』の関係」という言葉が嫌いでした。
必ずどちらかが勝ち、どちらかが負けると思っていたから。なんとなく頭のよい人の「『WIN-WIN』の関係」という言葉にごまかされているのではないかとこの言葉を私に発する人にはものすごく警戒していました。
この本の中でも「『WIN-WIN』の関係」という言葉に触れられていて(P.167)、「ビジネスは基本『WIN-WIN』、問題とすべきはどのくらいウィンか」ということ」という言葉には胸がすく思いでした。
これだけシステマチックな本を著す瀧本さんは最初と最後に「大切なのはロマンとソロバン」と言っています。大学の先生と他にベンチャー企業へ投資をするエンジェル投資家であるお金のプロは「思いだけでは成り立たない。だけど思いのないところには人もお金も集まらない」と言葉の温度をあげて私たちに語ります。
「思いだけで空回りしていないだろうか」
「お金のためだけにうごいていないだろうか」
仕事をするにあたって常に頭の片隅に置いておきたいことです。
ぜひみなさんにも瀧本さんの本を手に取り「言葉のもつ温度」を感じて欲しいです。
この本の中でとても残念なことがあるとすれば、もう瀧本さんはこの世にいらっしゃらないということ。とても若くしてこんな優秀で人情を感じさせる学者はそういないだろうと思います。亡くなる前に買って本棚に入れたままにしていましたが、じっくりと向き合うことができた本当にいい年末年始でした。
ちなみに、最初の「オレンジを取り合う姉妹」の答えは、
「姉はマーマレードを作るために皮ひとつ分が欲しかった。妹はオレンジが食べたかったので実ひとつ分が欲しかった」です。
ニーズは聴いてみないと分からないもの。交渉は怖くない、むしろ平和に暮らすための知恵なのです。